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パネルディスカッション

最終更新日:

燃料、原子炉の安全性について

【中村コーディネータ】
 海外でのプルサーマルの実績と、実際に玄海3号機で行われようとしているところには違いがあるのか。それが安全性の問題につながるのではないかとの点については。

【東京大学大学院 大橋教授】
 例えば原子炉の出力や、燃焼度、炉心の装荷割合については、ヨーロッパや各国で実績が出ています。玄海で検討されているのは、その範囲内に収まっています。ただ、収まっているからいいとか、ちょっと出ているからどうという判断をしているのではなく、ベースとなっている基本的なデータと、設計して、解析して、評価するやり方にどれぐらい我々は技術的な信頼をもって、根拠としているのかということに基づいています。
 プルトニウムの富化度について、玄海の値はフランスよりも上回っていますが、プルトニウムの富化度で言えば、高速増殖炉の30%についても正確に予測して解析することができます。最も核分裂が起きやすい状態で実験をし、その中で、核定数とか、反応度係数というのを測定し、これを原子炉運転特性や過渡変化の計算に用いるわけです。そこから先は、普通の原子炉で数多くの実績のある手法で計算を行います。このプロセスには高い信頼性があり、今の玄海の計画、言い換えれば、九州大学大学院 出光教授先生がご紹介された、3分の1MOX報告書の検討の範囲内というのは、科学技術的な根拠を持っています。

【九州大学大学院 出光教授】
 融点が下がると、スリーマイルアイランドの時のような事故が起こり、たくさん溶けるというような話がありましたが、融点が下がるからたくさん溶けるということはありません。たくさん熱量を与えればたくさん溶けるということです。例えば、製氷機で氷を作って、氷は融点が低いため0度で溶けますが、それよりも温度が低い所に保存しておけば溶けない。熱量を加えると溶ける。融点が高い低いというのと、溶ける量の多さというのは関係がありません。

【京都大学原子炉実験所 小出助手】
 九州電力は「MOX燃料はウラン燃料より低い温度で溶けて危険が増すと言われていますが、大丈夫ですか」という質問に次のように答えています。「ウランにプルトニウムを混ぜると、溶融点は、混ぜたプルトニウムの量によって低くなります。従って、玄海3号機で使用するMOX燃料ペレットの場合、溶融点はウラン燃料よりも70度低い約2720度となります」と。なかなか正直です。今まで使っていたウラン燃料に比べて溶け易くなるというのは確実です。ただし、そうなった時にどうなるかというと、「MOX燃料ペレットの溶融点は約2720度ですが、出力が異常に上昇する場合でもペレットの最高温度は約2250度までしか上がらないため、MOX燃料のペレットは溶けることはありません」というのが九州電力の答えです。
 私はこういう考え方はダメだと思います。つまり、技術は一歩一歩の蓄積で、少しずつは進歩するけれど、常に落とし穴もあるわけです。想定していることに関しては対応できるが、想定していなかったことが起これば対応できないのが技術なのです。だからこそ安全余裕が必要なのだし、安全余裕はなるべく大きく取っておくというのが原子力のようなものを相手にする時の鉄則であるわけです。その安全余裕を、融点のことも富化度のこともそうですけど、一つずつ削っていってしまっていることが問題です。

【東京大学大学院 大橋教授】
 これは安全余裕を完全に間違えておられる方の考えで、融点が下がるということがプラントにどういう問題を引き起こすかという観点から解析をして、何かが起こった時に、それが溶けるのか、溶けないのか、そういう議論をしているのであり、融点がちょっと変わったから危険になるというような話は技術的には何の根拠もありません。

【京都大学原子炉実験所 小出助手】
 たとえば、スリーマイル島事故の場合には、原子炉の半分が溶けました。圧力容器の底に沈んだ段階でようやく事故が収束し、圧力容器は幸いに壊れなかったし、格納容器も壊れませんでした。それは起こりうる事故のうちの一つの例です。ただし、スリーマイル島の事故が起きるまでは、そのような事故は決して起きないと原子力を進める人たちは言っていました。ところが事故はやはり起きました。
 そして事故というのは、どのように進展するか分かりません。たまたまスリーマイル島の時には水蒸気爆発は起きませんでした。だから、軽水炉で水蒸気爆発が起きないかというと、そうではないのです。軽水炉という今の玄海原子力発電所の場合でも、水蒸気爆発あるいは水素爆発が起きるということは、きちんと技術的に想定できます。ただし、国はある程度以上のことは考えないという姿勢を現在取っており、水蒸気爆発や水素爆発を伴うような事故は「想定不適当」として無視しているに過ぎません。

【中村コーディネータ】
 事故時の被害の想定、被害の拡大、その危険性、このあたりについてはどうか。

【東京大学大学院 大橋教授】
 ラスムッセン報告というのがあります。これは、1975年に発表された格納容器破損のシナリオというのが含まれている報告です。この格納容器破損のシナリオを使って、プルトニウムの放出については、チェルノブイリで放出された値プラスアルファの4%という値を想定して、他のアクチニド元素もどんどん放出されるという仮定を置いて、半数死亡の距離を計算すると、ウラン燃料で45キロ、MOX燃料で83キロと約2倍になるため、これをもって距離で2倍、面積で4倍という主張がされているのだと思います。
 ラスムッセン報告は、いろいろなシナリオについて確率、それからその影響を評価して、確率と影響の積を全部足してリスクを求めたものです。例えば地球が壊れるような大隕石が落ちる確率というのは、極めて小さいが、地球の大きさのような隕石が当たれば、地球は全員死亡ということになる。中程度の隕石だと、確率は中間だけど、影響も中間くらい。小隕石はおそらく、1年に何個か落ちてきており、確率は大きいけれども、その影響というのは殆ど燃え尽きたり、海へ落ちて微小である。こういうのを足してリスクを求めるのがリスク評価です。
 この確率論的安全評価というのは、確率を考慮してリスクを求めるためのもので、都合のいいシナリオだけとってきて、例えば大隕石が落ちますよ、怖いですよ、地球は全員死んじゃいますよと言ってもしょうがありません。
 ラスムッセン報告は30年前の古いデータです。その後、多くの研究がされています。この結果、格納容器破損が起きる確率は極めて小さい。チェルノブイリのようなことが起こるとは、原子力の専門家は誰も思っていないわけです。それを起こるかもしれない、危険ですよと言って、根拠のないデータを意図的に持ってくるような解析は問題だと思います。

【京都大学原子炉実験所 小出助手】
 東京大学大学院 大橋教授さんはすごい技術信仰論者ですね。しかし何でも人間が思っているとおりに動くわけではありません。
残念ながら原子力の世界でも、これまでたびたび事故が起きてきました。例えば1999年の9月30日に東海村の核燃料加工工場で、私たち原子力関係者が決して起きないと思っていた臨界事故が起きました。そして、二人の労働者が大変悲惨な死を遂げました。それを受けて2000年に出た原子力安全白書は次のように述べています。
 『多くの原子力関係者が原子力は絶対に安全などという考えを実際には有していないにも関わらず、こうした誤った安全神話がなぜ作られたのだろうか。その理由としては以下のような要因が考えられる。他の分野に比べて高い安全性を求める設計への過剰な信頼。長期間に渡り人命に関わる事故が発生しなかった安全の実績に対する過信。過去の事故経験の風化。原子力施設立地促進のためのPA(パブリックアクセプタンス)。公衆による需要活動の分かり易さの追求。絶対的安全への願望』。原子力関係者はきちんと反省しなければいけません。
 現在の国の安全審査では、まず重大事故を考えるといっています。これは技術的に考えて起こる事故です。そのうえに仮想事故という事故を考えて、念には念を入れて考えているというのです。それでも、どちらの事故でも格納容器は壊れないことになっています。そして、格納容器が壊れるような事故は「想定不適当事故」だと国は無視してしまいます。しかし、どんな事故だって考えて、それぞれの事故がどれだけの可能性で起きるのかということを含めて皆さんに説明する責任が,国にあるのです。それを未だに一度もやっていないという不思議な国が日本です。

【美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会 小山代表】
 富化度の話ですが、国の資料によると、プルトニウムの中には核分裂するものとしないものがあり、核分裂するものでいえば4・5とか4・9とかこういう数字ですが、玄海の場合は6・1という値をとるということですね。諸外国にはどれも無いという、それほど高い富化度のものがやられるということです。富化度が高くなると、プルトニウムスポットという塊が、富化度が高いほどたくさんゴロゴロと川原の石のように並んでいるということが分かります。富化度が高いということは、こういう状態のMOX燃料を使うということになります。
 MOX燃料はペレットの中からガスが出てくる割合が高く、ガスが出てくるということは、ペレットの中の粒と粒の間にガスが溜まって、そして、これで燃料をバラバラにしようとする力が働くということです。もしも、制御棒が飛び出すような事故が起こると、模擬実験では、ほんとにバラバラになって燃料が冷却水中に飛び出すということが起こると。
 また安全解析というのは、安全という結論に合わせるように解析するということがこれまで行われています。

【中村コーディネータ】
 プルトニウムスポットの影響についてほかには。

【九州大学大学院 出光教授】
 プルトニウムスポットを入れたもの、入れてないものの実験を行いました。スポットがあろうが無かろうが、あるいはプルトニウムが入っていようが入っていまいが、どういう時に壊れるかというのはMOX燃料とウラン燃料では差が無いという実験結果です。
 ガス噴出については線出力が高い時、つまり、ガンガン熱を出してる時、そういう時にはガスはたくさん出ます。MOX燃料だから高いのではなくて、出力、つまり、その実験時にパワーを出したからガスがたくさん出たんですよと論文にも書いてあり、そのように評価されています。燃焼度は6万を超えるぐらいまでMOX燃料でやっていますが、放出率は上がっていません。線出力を下げたところで運転すればガスは多くは出ませんよというのは、ちゃんと実験で確認されています。

事故の影響・テロについて

【中村コーディネータ】
 防災対策の問題、これは自治体の責任だが、この防災対策の範囲をプルサーマルになったらもっと広げた方がいいんじゃないかというご指摘がある。今、県としては発電所周辺10キロの範囲内の防災対策ということで、それを今広げる必要は無いという判断だと思うがそのあたりも関連して、事故時の影響等についてはどうか。

【京都大学原子炉実験所 小出助手】
 原子力発電所というものは、それ自体が危険な物です。今の玄海原子力発電所にしても、そこで私たちが本当に恐れているような事故が起きれば、被害範囲が10キロで収まるなどということは到底ありません。
 そして、もし玄海原子力発電所がMOX燃料を使うことになれば、被害の範囲が拡大することは当たり前です。なぜなら、プルトニウムはウランに比べて数十万倍も毒性が高いからです。
 防災対策の範囲が10キロでいいのか20キロでいいのかというような議論を私はしたくはありません。もっともっとはるかに広大な地域が汚染されるということがありうることを覚悟しておく必要があります。

【神戸大学海事科学部 山内助教授】
 事故の想定という場合には、ソースタームをどういうふうにとるのかということで非常に計算結果も変わってきます。
 水蒸気爆発は起きないというようにあらかじめ決めてしまうことは出来ないと思うし、そこの所については、最悪の場合を考えておかなければならないのではないかと考えます。

【美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会 小山代表】
 今の中に入っている放射能が取り出してから1年経った時にどれぐらい放射能が違うかということを、関西電力が計算したものを私たちはもらったのですが、核分裂で生まれる放射能については、MOX燃料の方が1・1倍多い。それから、長寿命の、ウランより重いプルトニウムとか、そういう非常に何千年という寿命を持った、長い寿命を持った放射能ですが、これが6・8倍多い。もし4分の1炉心ですると、だいたいこの長寿命の元素が2・5倍ぐらいは多い。これが外に出るかどうかという議論はあるにしても、危険になるのは確かです。

【東京大学大学院 大橋教授】
 2つの点を指摘したいと思います。事故の時どうなるかというのは想定したシナリオに全部依存します。全部壊れて、全部出て、全部が環境に放出されるとなればどんな結果でも出せます。専門家になればなるほど、そんな格納容器が壊れるなんて思えない。水蒸気爆発が起こるとは考えられないというのが専門家の見解です。今、安全審査でやっているのは、技術的に考えられる限り、ここがこうなって、ここが壊れてプルトニウムがこう出てきて、ここで止められて、それでもなおかつという仮定を設けた上で、更にそれよりも過大な放射能を放出された場合の前提を置いて計算をしています。反対派の方々が「ほら見ろ」とそういう想定を逆方向にとられるから議論がかみ合わないのだと思います。
 もう1つはプルトニウムの毒性について。プルトニウムの毒性というのは非常に誇張されてとらえられています。プルトニウムの健康被害を扱う専門家の方は社会的毒性と呼ぶこともあります。実際にはなんにも怖いことはない。仮に大げさな話をして、プルトニウムをテロリストが取っていって貯水池に投げ込んだとします。そこから水道が供給されている。じゃあ何万人が死ぬかというと、そんなことはありません。プルトニウムは水にも溶けないし、仮に体内に水として飲んで入ってもすぐに排出されます。
 全く起きないような仮想について言うのは、何が起こるか分からないですよという話と同じです。

【京都大学原子炉実験所 小出助手】
 毒物というのは、体への取り込み方でその毒性が変わります。プルトニウムの場合に怖いのは、鼻から呼吸で吸入する場合で、その毒性は、百万分の1グラムを吸入したら、人が肺がんで死ぬというほど恐ろしいものです。
 原子力発電所の事故の場合、事故の態様によっては炉心が高温になり、プルトニウムが粒子あるいはエアロゾルになって放出される場合がありえます。そうして気体になったものが流れてきて、それを吸い込むことが危険なのです。

【九州大学大学院 出光教授】
 どんな少量のプルトニウムも危ないのかということに、私は異論があります。私は学生と一緒に毎年プルトニウムを使った実験をしているが今の所ピンピンしています。許容量でいくと、1人あたり0・087マイクログラム。計れないといえば確かに計れないが、それが危険かという話でいけば、今までの核実験とかでプルトニウムがたくさん放出されていて、長崎でも出ていますが、1人あたりのプルトニウムの降下量でみると許容値の100倍以上です。ただそれを体の中に取り込んでいるかというと、実際はそうじゃない。
 チェルノブイリの時も放出された量は、プルトニウムは確かに出てはきているが、かなりの部分はあまり広がらなかった。プルトニウムによる被害が出たかというと、プルトニウムによる被害というのはまだ確認されてないというのが実態です。

【中村コーディネータ】
 セキュリティの問題で、原子力発電所へのテロ攻撃。これがプルサーマル計画が進んでくると余計そのターゲットとしてクローズアップされるんじゃないかという、そういう不安もあったんですが、この問題についてはどうか。

【拓殖大学海外事情研究所 森本所長】
 周りの国のどこかが日本のプルサーマルを破壊しなければならないような軍事的かつ戦略的必然性があるかというと、ちょっと考えにくい。例えば、日本が 100%プルサーマルにエネルギーを依存しているというのなら分かりますが、日本の原子力は30%弱です。相手国の側に立って考えると、極めて重要な、例えば国家的な化石燃料の戦略備蓄倉庫を攻撃するというなら多少できるかもしれないが、それも日本の領域の中に入ってやらないと難しい。プルサーマルを持っているからプルサーマルだけが相手に狙われて攻撃を受けるという蓋然性はそれを何の為におこなうのかということを考えると、軍事的には考えにくいのではないかと思います。この国全体の安定というものを見た場合、プルサーマルや日本の技術的許容度をどの程度認めるかという議論よりも、周りの国で北朝鮮、あるいは韓国も追いかけて原子力開発とか核開発とかやっていますが、彼らが日本よりもはるかに低い技術レベルであるにもかかわらず核実験をやろうとして失敗したり、地下水に放射能をたくさん放出するような地下核実験を日本の周辺でやり、それが日本海を汚染するというケースだとか、十分に環境に与える影響も考えない中国の原発が、日本海の向こう側で増え続けることからくる我が国へのリスクの方が、蓋然性としては高いと思います。
 即ち、日本の技術をグローバルに見た場合、周りから受けるリスクの方が、高いのではないかということだけは申し上げておきたいと思います。

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